あすなこ白書

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なぜ私は“勇者ちゃん”を受け入れることが出来なかったのか【恋つづ】

そのとき私は、しばらく健が供給されない悲しみと、なにか縛られていたものから解き放たれたような清々しさを同時に感じていた。後者の気持ちの方が大きかったもしれない。というのも、私はまっすぐな気持ちで『恋つづ』を楽しむことが出来なかったからだ。物語云々よりもヒロインである“勇者ちゃん”のことを最後まで好きになれなかった。


「健のことが好きだから、勇者ちゃんを受け入れられなかったのか?」

 

いや違う。それは嫉妬、醜い嫉妬だ。たしかに佐藤健の公式LINEアカウントを友達登録して友達どころか健と私は既に付き合っているんじゃないかと一瞬錯覚を起こしたことはあるけれど。あるけれど、私は勇者ちゃんに嫉妬していたわけではない。ぜってえ違う。なにか理由が他にあるはずだ。胸に抱いたこのドス黒い気持ちの正体を探るべく、私は全く見返す予定のなかった『恋つづ』を第1話からを見てみることにした。

 

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ツッコミ待ち系ヒロイン・勇者

いつ頃から勇者のことを好きになれなかったのかと聞かれると、わりと早い段階で好きではなかった。むしろあまり良くなかった第一印象が最後まで尾を引いていたように思う。決定打となったのは第2話。患者なしを初めて経験した勇者が「辞めます、辞めます……」と泣いたシーンで、私は心のシャッターを閉じた。勇者と魔王が恋人になって、初めてのすれ違いを描いた第5話。勇者が「公私混同してるのは先生の方じゃないですか!」と詰め寄ったシーンで、私は本日閉店の札を下げたのだ。

 

 

勇者は仕事が出来ないことは勿論、仕事への向上心も大して感じられたなかった。と、パワハラ上司のような文言を書いていたのだが、改めて『恋つづ』を見返すと、勇者は勇者なりに仕事へ励んでいることが分かった。すまない。(なぜ勇者の仕事への意欲があまり感じられなかったのかは後述)しかし、仕事はやっぱり出来ていなかった。

改めて『恋つづ』を見ると、私は勇者が「ツッコミで成立するヒロイン」なことに苦手意識を感じていたようだ。勇者の代名詞と言えば「ドジっ子」。職場でもプライベートでも奇想天外な行動を起こし、誰かがツッコミを入れて、「てへへ~」な感じでオチがつく。私はその鉄板の流れが苦手だった。

このツッコミ待ち行動は、勇者が魔王の彼女に就任してから益々増えたように思う。出来立てのたこ焼きを一口で食べる、アンバランスなソフトクリームを最下層からペロッと舐め上げて鼻にクリームをつける(一生言う)、頼んでもいないのに病院を勝手に辞める、潰してくださいと言わんばかりの場所におにぎりを置く。たーまごかけご飯納豆ご飯まぜると元気の出るご飯ってその歌なんなんだよ。最終回ではダチョウ俱楽部も息をのむような速さで、出来立ての小籠包を一口で食べて、案の定ハフハフ言っていた(ちなみにこの下り2回する)

 

 

なぜ勇者はここまでぶっ飛んだ行動をとるのか。それは、勇者の奇想天外な行動によって、健の「ヴァーカ」が発動するからだ。「ヴァーカ」「このヴァカ!」「ヴァカか、お前は!」つまり勇者のぶっとび行動は、いつの間にか「ツンデレ天堂(健)」の発動条件になっていたのだ。このように考えてると、勇者は我々視聴者のためを思って行動していたのかもしれない。あの一連の行動が計算無しの“素”ならば、どう考えても正気の沙汰ではないからだ。しかし私は、勇者の行動がどうしても好意的に受け取れなかった。むしろあざとく感じてしまったために、最後まで苦手意識が拭いきれなかったのだと思う。

 

比較対象となったパーフェクトガール“酒井さん”

勇者へのネガティブな気持ちを日に日に膨らませていったのが、吉川愛演じる勇者の同僚・酒井さんの存在だ。

 

勇者「酒井さん、まさに即戦力だってみんなから褒められてた。羨ましい……」

酒井さん「私は佐倉さんが羨ましい」

勇者「え!?」

酒井さん「母が看護師だったの。でももうやってなくて、医療事故で訴えられて。悔しかったと思う。だからその分、私が優秀な看護師になって胸張らしてあげたいなって。だから簡単にやめるわけにはいかないの。佐倉さんみたいに、動機が一目ぼれとか羨ましい。シンプルで」

勇者「すごいねえ、酒井さんは。(中略)私にはとても出来ない……」

酒井さん「私は勉強したい、あなたは好かれたい。その違いじゃない?」

 

 実はこの酒井さん、原作では中盤から登場するキャラクターだ。見た目も可愛く、仕事が出来るのはドラマでも一緒。しかし原作では、天堂が好きで勇者をライバル視している“ぶりっ子腹黒ライバルキャラ”として登場する。この設定をそのままドラマに採用しなかったのは英断!しかし、ここで酒井さんを「真面目で仕事熱心なキャラ」に軌道修正したために、公私混同しがちなドジっ子ナース・勇者との間に皮肉にも差がついてしまった。酒井さん唯一の欠点と言えば、同期や患者に対してドライに接してしまうところ。でもぶっちゃけ職場で浮ついている勇者よりは良いと思う。

ドラマ版の酒井さんは、天堂ではなく来生先生に恋をしている。同期の仁志くんの恋愛パートよりも圧倒的に少なく、なかなか上手くいかない恋の行く末を視聴者は親のような目線で見守っていた。多くの人が「こんなに良い子が報われないなんて……なぜ……」と疑問に思ったことだろう。「こんなに良い子が報われないなんて……なぜ……勇者はこんなにもトントン拍子に……」と思ったのは私だけではないと願いたい。

 

 

さて、ここまで2500字。そろそろ皆さんもお気づきになっただろうか。私も気づいた。私が勇者を受けいれられない理由は嫉妬ではないと書き始めたが、私が勇者に抱いた気持ちは間違いなく「嫉妬」だ。勇者がどれだけ仕事が出来なかろうが、一言多い性格だろうが、行動があざとく見えようが、同期の優秀な子に比べてトントン拍子にすすもうが、すべて「嫉妬」という気持ちの上に成り立つものだった。

 

 

しかし、勇者が圧倒的「勝ち組」である事実は揺るがない。不特定多数と同じ内容ではなく健からのお言葉を直に貰える勇者……sugarではなく普通の電話で健と話せる勇者……。自称ではなく堂々と“佐藤健(天堂)の女”を名乗れる勇者は、この春一番の勝ち組だ。すくなくとも、こんなにも晴れた三連休初日に荒んだ文章を書いている私よりは。

 

ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございました。最後はこの歌で終わりましょう。この三か月好きだった天堂先生と佐藤健へ捧げます。

 

それでは聞いてください、Official髭男dismで『Pretender』

 


Official髭男dism - Pretender[Official Video]

 

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