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【なつぞら】134話感想~夏を駆け抜けていった、天陽くんへ~

134話「なつよ、天陽くんにさよならを」

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天陽くんは、常になつの一歩先を歩く人だった。

時々振り返って手を差し伸べてはみるけど、そこから手を繋いで、同じペースで隣を歩く印象はあまりない。天陽くんは、なつが手を引かずとも自分のペースで歩けることを知っているし、何よりも、なつ自身の力を信じているからだ。一方で、なつにとっての天陽くんは“同志”であり、“憧れの人”でもあった。根底にあるものは一緒だけれど、なつが手を伸ばしてみても届かない場所にいた。一歩先を歩く天陽くんは、なつにとっての目標で、眩しく誇らしい存在だったはずだ。

 

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天陽くんが紡ぐ言葉は、繊細で小難しくて、どこか哲学的だった。また、その言葉を吉沢亮という圧倒的な美を持つ俳優が語ることで、より芸術的なものにさせた。でも不思議なことに、彼の言葉に繊細さを感じても“脆さ”は感じない。それは山田天陽が地にしっかりと足をつけた人間で、彼の中に一本の芯が通っていたからだと思う。

 

天陽くんは、自然に逆らうことをしなかった。絵が好きで、自分に絵の才能があっても、家のために十勝に残った。絵描きではなく、泰樹のような“開拓者”を目指した。それは彼が開拓者になりたかったからではなく、家を守るためには天陽くんが開拓者となり、道を切り開いていく必要があったからだ。

なつへの気持ちが恋だと気づいた時も、なつの東京行きを止めはしなかった。「行くなよ」とは言ったけど、賢い天陽くんはなつがどの道を選ぶか分かっていた。なつが東京へ行くことが自然の流れであり、必然だったことも。その後、天陽くんは靖枝と結婚する。開拓農家の娘である靖枝と結婚することも、彼にとっては自然の流れだったのだろう。

 

「俺、ずっと思ってたんです。なっちゃんはいつか、この土地からいなくなる。なっちゃんにとってはそれが自然なことだろうって。自然には逆らえんでしょ」(40話) 

 

宿命は、天陽くんの“好き”をも飲み込んでいく。最初は好きで描き始めた絵も、最終的には絵を描かないと家が回らなくなってしまった、と零す彼の姿が切なく見えた。天陽くんは元々少し早めに歩く人だったけれど、背負っていたものが彼をより急かしたんじゃないか。やっと一息つけた場所が空の上なんて、やっぱり少し酷すぎる。でも彼は抗うことなく、自分の運命を受け入れるように、畑で静かに息を引き取った。

 

「おかしなもんだな。好きな絵を描くために農業をしてたつもりが、絵を売らんと今は農業がままならんようになってしまった」(132話)

 

なつぞら』の幕引きまで、残り一か月。なつだけではなく、天陽くんは私たち視聴者をも置いていってしまった。さすがに週末だろうと思っていたが、週が始まって二日目の火曜日早々に去っていくのも、急ぎ足の天陽くんらしいかも。遺作の絵が完成したのが、せめてもの救いだ。最後は一番好きな天陽くんの台詞をお借りして、私も彼の運命を受け入れたい。

 

「俺にとっての広い世界はベニヤ板だ。そこが俺のキャンバスだ。なにもないキャンバスは広すぎて、そこに向かっていると自分の無力ばかり感じる。けど、そこで生きている自分の価値は、他のどんな価値にも流されない。なっちゃんも道に迷ったときは、自分のキャンバスだけに向かえばいい。そしたらどこにいたって俺となっちゃんは、なにもない広いキャンバスの中でつながっていられる。」(42話)

 

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