2025年まで残すところ、あと2日!(白目)もろもろ納まってないんですが、今年のうちに語りたいことを、ブログとnoteに書けるだけ書こうと思います。まずはドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の最終回について。あらためて、最後まで素晴らしいドラマだった〜!最終回含めて大好きな作品でした。ちなみに年間ベストでは第3 位に選びました。秋クールの中ではいちばん好き!
さて、全人類がドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の最終回を見届けた前提で、書き進めます。ドラマ版の勝男と鮎美は、一度元サヤに戻ってみるものの、結果的にまた別れてしまった。原作が連載中で、ふたりを復縁させるのはかなり重い決断ゆえ、元サヤには戻らずに程よい距離感で関係性がつづくのでは〜〜とおもしろみのないメタ予想をしてたから驚いた。
- 傷つけた側が己の“加害性”に気づくしんどさ
- 勝男と鮎美の別れが象徴する「アップデートは誰のため?」
- 昭和的価値観にまみれた中年男性がアプデする『おっパン』
- アップデートしても鮎美と復縁できなかった勝男
- 価値観のアップデートに“自己否定”は伴わない
傷つけた側が己の“加害性”に気づくしんどさ
己を縛っていた旧来的な価値観を見つめ直し、ふたたび同棲し始める勝男と鮎美。あの頃よりお互いに言いたいことも言えて、上手に循環するようになるかと思いきや、微妙に噛み合わないことがチラホラ。鮎美のことが大好きな勝男は、新しいスタートを切りたい彼女を「ケアしてあげたい」「サポートしてあげたい」という気持ちが前面に出ちゃうんだけど、鮎美にとってそれは、自分から主体性を奪うものや自分を支配するもののように映ってしまう。「面接はこうしたほうがいいからね〜」も、世間知らずの鮎美に「教えてあげるね」マウントではなく、勝男にとってはほんとうに純粋な“鮎美が夢を叶えるため(もっと上を目指せるため)のアドバイス”なのです。以前の勝男と違い、今回は鮎美のやりたいことに勝男がハマらなかっただけなので、なかなか難しい問題である。
なによりも切なかったのはね、二人の最後の晩餐……!
「この前鮎美が困ってるって勘違いして、鮎美の答え待たずに先回りして、ほんとうにごめん」
「俺さ、あの日鮎美に振られてから、ずーっと考えてて、でも最初何がダメなのかわからなくて、それで筑前煮つくった」
(中略)
「俺は、何回も鮎美に助けられてたんだね。だから今度は俺が助けてあげたいって思ったんだと思う」
「でも、いざ鮎美が一人で立とうとしてる時に、“支える”って言葉は違ったんだね。それが鮎美の言いたいこととかやりたいこととか、俺の無意識な押し付けで、蓋をしてたん…だね」
か、勝男ーーーーー!!!!(涼真ーーーー!!!)最新刊の第四巻に近しいセリフがあったので、つまりここは原作準拠のシーンではあるのだが、あまりに竹内涼真が切実すぎて泣いたよ……。
たまにドラマのワンシーンで、過去に傷つけられた経験があるものの、それを平気なフリしてやり過ごしてきた人が、誰かとの対話で「あの時の私傷ついていたんだ……」と自覚する姿に、ホッとすることがある。傷ついたことを自覚することはしんどいし、それを思い出すことにもなるから辛いけど、昔傷ついた“その人”は、少し救われるんじゃないかと思うから、だからホッとするんだと思います。
けれど、今回はその逆。加害者の勝男が価値観を見つめ直し、ふたたび鮎美と向き合おうとした結果、あらためて「相手を傷つけてしまったこと(=自分の加害性)」に気づいてしまう。立ち止まれたのは、勝男自身が上手くアップデートできている証なんだけどね。己の加害に気付き、それを内省するのではなく、あらためて言葉にすることのしんどさを、このシーンで突きつけられたような気がする。
周りから「変わったね」とお墨付きをもらっても、鮎美の想いを汲めてなかった辛さ……本命である鮎美にハマってない辛さ……。せっかく変われたと思っていたのに、またもや大切な人の心を踏み躙ってしまったなんて。泣きたくなるほど辛いんだけど、ここで勝男が泣いてしまうと、鮎美の辛さを矮小化することになるので、勝男は絶対泣いちゃダメなんですよ。泣きたくなるくらい申し訳ないけれど、絶対泣いちゃダメなんです。だからこそ、涙をグッと堪えて、鮎美を傷つけないように言葉を選びつつ、それでも言葉に詰まる竹内涼真のお芝居がとても上手かった……!ほんとうにすごいシーンだった。
勝男と鮎美の別れが象徴する「アップデートは誰のため?」
ふたりの行く末を見守っていた人のなかには、勝男と鮎美に復縁してほしかった人もいるでしょう。ただ、ふたりが別れを選んだ結末になったからこそ、とあるメッセージが顕著になったとも思う。それは「価値観のアップデートは自分のためにするもの」ということ。つまり『あんたが』のラストスパートは、アップデート論の話になっていたと思うのです。
『あんたが』は、鮎美にフラれた勝男が、料理を通して、自分の中の“当たり前”を見つめ直してゆく物語であり、従来の“男性らしさ”や“女性らしさ”に縛られていた若い世代を解放する物語でもある。彼らのポジティブな変化は、世代や性別を超え、周りの人たちにも伝播してゆく。一方で、価値観のアップデートに、抵抗がある人もいるだろう。“多様性”や“ダイバーシティ”と言われても、ぶっちゃけわからない。おそらくそういう類いの人は「こういう世の中だから、価値観を改め直さないといけない」「世間がそういう空気だから己を殺してまで変わらないといけない」と、アップデートを強いられているように感じているのではないだろうか。
昭和的価値観にまみれた中年男性がアプデする『おっパン』
昭和的価値観の中年男性・誠(原田泰造)が、ゲイの大学生・大地(中島颯太)と友達になったことを機に、アップデートを図る『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか』という素晴らしいドラマがある。
『おっパン』の良いところは、誠と同じくアップデートに躊躇いがあるだろう中年世代に向けて、現代における“多様性”をわかりやすく説いていること。本作における理想の社会とはつまり、あらゆる人々の“好き”が尊重される世の中だ。さまざまな人たちと知り合い、それぞれが異なる事情を抱えて生きていることを知った誠の世界は、どんどん広がってゆく。かつては会社の部下や家族からも疎まれていた誠が、価値観を見つめ直すことで、周囲との関係性が円滑になってゆく描写も印象的だ。そう!『おっパン』は、価値観のアップデートをすることで、自分も生きやすくなることを示しているのである。
そんな『おっパン』は、アップデートを重ねてすっかり無害オジになった誠と、それぞれの生きづらさから解放された誠の家族たちの“その後”を描いた映画版も秀逸だ。映画版は、アップデートを経た誠たちに、次々と新たな課題が降りかかる。日々目まぐるしく変化する時代の中で、私たちはどう適応すればいいのか。誠のアップデートに意味はあったのか(あるんだよ!)。柔軟に変化できた人々の“その後”まで描ききった『おっパン』は、とても誠実な作品だった。
アップデートしても鮎美と復縁できなかった勝男
『あんたが』に話を戻すと、対話不可な柳沢(濱尾ノリタカ)とふたたび鮎美とヨリを戻そうとしたラストスパートは、『おっパン』と同じく、アップデートの“その後”を描いていたように思う。しかし『あんたが』では、勝男がどれだけ価値観を見つめ直し、アップデートを重ねたとしても、悲願であった「鮎美との復縁」は果たされなかった。その結果だけを見れば、せっかく苦労しながら変わったのに……やっぱり価値観のアップデートなんてしても……と思う人もいるかもしれない。
けれど、勝男には確かに多くのものが残っている。部下である白崎(前原瑞樹)や南川(杏花)との関係性は良好で仕事も評価されるようになったし、椿(中条あやみ)という初めての女友達もできた。どこか距離を感じていた家族仲も、以前のような息苦しさはなくなり、少しずつ対話が成立する関係へと変わっている。おそらく彼女以外の趣味がなかった勝男が、料理、そして“出汁”の奥深さを知れたのも、彼の人生にとっては大きな気付きだろう。
つまり『あんたが』も、価値観のアップデートは、同じ社会で共存する他者のため、そしてなによりも自分自身のためにするものだと示している。「自分のためにアップデートする」というメッセージは、鮎美とヨリを戻せなかった結末だからこそ、より強く浮かび上がるのだ。
価値観のアップデートに“自己否定”は伴わない
頭からつま先までどっぷりと旧時代的な価値観に染まっていた勝男だが、ひとつ、最後まで変わらなかったものがある。それは「完璧主義を愛している」という点だ。覚えているだろうか、「ん、完璧」と微笑む勝男の姿を。
勝男の完璧主義は、「男は男らしく育て」という父の厳しい教育からきたものだ。いわば完璧主義もまた、旧時代的な価値観の延長線上にある気質である。けれど、さまざまな偏見を改め直したあとも、完璧主義だけは最後まで変わらなかった。「完璧主義」を他人に強いるのは問題だが、完璧主義そのものが“悪”なわけではないからだ。
つまり『あんたが』は、価値観のアップデートとは、その人が大切にしている核までを塗り替えることではないのだと、最後まで完璧主義を愛しつづける勝男の姿を通して示している。それは、「アップデートとは自分を殺してまで価値観を刷新することだ」と、価値観のアップデートそのものに嫌悪感を抱いてる人たちへの、静かなカウンターでもある。ちなみに、最終回の一歩手前では、勝男の上司である高田(平原テツ)が、いわば“アプデ疲れ”のような発言をしていたが、価値観のアップデートの意味を履き違え、勝手に疲弊してしまった人として描かれていたのだと思う。だって本来のアップデートは、誰かを消耗させるものではないはずだから。
みんなで価値観見つめ直そ〜〜!?と視聴者をエンパワメントしていた『あんたが』と『おっパン』が、「アップデートしたら全部うまくいくよ〜!!」と夢物語を語るのではなく、“その後”の躓きもきちんと描き、それでも前を向こうとする人たちを描いたことは、とても誠実だったと思う。その誠実さには、勝男のように「変わりたい」と願う人たちに寄り添っているようにも感じた。