あすなこ白書

日本のドラマっておもしろい!

キムタク世代が織りなすリブートの物語『グランメゾン東京』

俳優・木村拓哉が好きだ。画面を通して“非日常の世界”へ連れて行ってくれる、唯一無二の存在だからだ。私の隣にキムタクはいない。でも、私の世界にもいてくれたらいいのに、といつも思う。例えば、なにかの事件に巻き込まれた時に取り調べを受けるなら久利生公平にしてもらいたいし、空港で新海元とすれ違ってみたいし、初めて行った美容院で「今日担当します、沖島です」って愛想のない挨拶をされてみたい。私の世界にキムタクはいない。でもなぜだろう。彼の作品を見ているときだけは、あのキラキラとした世界に、私も足を踏み入れたような気分になる。

 

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日曜劇場『グランメゾン東京』|TBSテレビ

 

令和になって初のキムタク主演ドラマとなった『グランメゾン東京』。彼が今回演じる役どころは、フレンチのシェフだ。パリの三ツ星店で修業した後に開業した「エスコフィユ」というレストランで二ツ星を獲得し、シェフとして絶大な人気と地位を確立していた尾花夏樹(木村拓哉)。しかし2015年の日仏首脳会談の昼食会にて、仏首脳がアレルギーのナッツを何者かが混入した。店の従業員に対して差別的な発言をした仏官僚に対して暴力事件を起こした尾花は逮捕され、“日本人シェフの恥”として料理界から追放されることになる。3年近くパリで堕落した生活を送っていた尾花の目の前に現れたのが、同じ日本人シェフの早見倫子(鈴木京香)だ。料理の腕こそは普通だが、彼女は抜群に優れた舌を持っていた。ミシュランの星が取りたかったと話す倫子に、尾花は一緒に店を開こうと声をかける。「世界一のグランメゾンを作ろう」と。

 

ナッツ混入事件で各地に散らばった仲間を呼び戻し、ミシュランの三ツ星という名のひとつなぎの大秘宝を目指す展開は、さながら『ONE PIECE』のようだ。かつて「エスコフィユ」で尾花と共に働いていた最高のサービスを提供するギャルソン・京野(沢村一樹)、WEBレシピの貴公子・相沢(及川光博)も再集合し、ついに「グランメゾン東京」がオープンする。誰もがすぐさま仲間になるだろうと思っていた尾花大好き祥平(玉森裕太)が、未だに仲間になっていない(グランメゾン東京のメンバーではない)ところがミソだ。対立構造もわかりやすい。「グランメゾン東京」のライバルとなる二ツ星店「gaku」のオーナーシェフ・丹後(尾上菊之助)は、パリ修業時代からの尾花のライバルだ。「gaku」のオーナー・江藤(手塚とおる)も、視聴者の矛先を受け止めるために生まれてきたような胡散臭い関西人で、憎んでくれと言わんばかりにあらゆる罠を仕掛けてくる。

 

主役の木村拓哉からスポットで登場する冨永愛まで、あーこれこれと頷きたくなるキャスティングの良さ。しかし、オーナーシェフとして店を引っ張る倫子を演じるのが、なぜ鈴木京香なのだろうと暫く疑問に思っていた。演技力が足りないとか役に合わないとか、もちろん問題はそこではない。木村拓哉と店を開くパートナーが、なぜ“あえての鈴木京香なのか”ということだ。

 

(でも「ロンバケ以来のキムタク×山口智子の共演!!」という激アツカードは既に他作品で切られてしまっている……)

 

 

見ての通り、当時の私は鈴木京香にしっくりきていない。

早見倫子はそこそこの料理人だが、食べると食材と料理工程が一瞬でわかる“超ド級の能力者”だ。母の死をきっかけに倫子は自分の店を畳み、単身でパリへ渡る。三ツ星レストラン「ランブロワジー」で一から始めようと採用面接を受けるものの、開始早々に言われてしまう。「もうすぐ50歳ですか。やる気のある若い料理人はいくらでもいますよ」。ここでオーナーシェフが「料理に年齢は関係ない」と断言したので救われたが、一緒に並んでいる若い男性料理人たちにニヤニヤされるのを見て辛かった。一番の自信作を披露した倫子は実技テストに落ち、自分に足りないものは何だったのかと「ランブロワジー」に勤めていた尾花の料理を食べにいく。手長エビのエチュベ(蒸し煮)を口にしてなにかを悟った倫子は、涙を流しながら言葉を絞り出すのだ。

 

おいしい。すっごく…おいしい。なんで私には作れないんだろう…。

 

このシーンは、第1話のハイライトと言える名シーンだと思う。本当に良いシーンだけど、余計に胸が痛くなった。鈴木京香は美しい人だ。その彼女が年齢を理由に哂われたり、そう見たくはないのに、彼女の頑張りが空回りに見えてしまうことがイヤだった。尾花と「オジサン」「オバサン」と言い合うのもイヤだ。……こう、もうちょっと、シュッとする方法が、他にあったんじゃないか。どちらかというと、鈴木京香には超クールな女経営者みたい役で関わってほしかったのである。

しかし、抱いていた違和感は物語が進むにつれてなくなる。『グランメゾン東京』は、40~50代のミドル層が再び立ち上がる【Reboot=再起】の物語だった。今作は全世代が力を貰えるエネルギッシュな作品だが、制作陣が特に背中を押したいのが40~50代の“キムタク世代”なのではないだろうか。50歳でゼロから出発しようと立ち上がった早見倫子は、今作の最適なヒロインであり、尾花の最適なパートナーだ。マネージャー側として登場してほしかったなんて恐ろしいほどに見当違いだった。現役のプレイヤーであり続けたいと奮闘する50歳の倫子だから意味があるのだ。

 

私のようにキムタクドラマが好きな人もいれば、苦手な人もいるだろう。木村拓哉が存在する世界の中でもやっぱり木村拓哉は稀な存在のようで、多くの作品は彼を”別格”として扱ってきた。仕事に対しては熱心かつ超一流だが、普段は飄々としていて癖も強い。作品に登場する多くのパンピーたちは、たいてい木村拓哉にヤキモキしている。『グランメゾン東京』も他と同様に、そっち系のキムタクドラマだ。しかし、今までのキムタク作品とは明 ら か に違う点がある。『グランメゾン東京』では、あの木 村 拓 哉 が「頭を打つ」のだ。

例えば第2話。銀行先から融資を受けられない倫子たちは、知名度のあるシェフを勧誘しようと、人気WEB料理研究家として成功を収めた相沢(ミッチー)の料理教室を訪れる。そこで尾花は相沢に即席料理対決を挑むが、まさかの惨敗。尾花が作った超高級じゃがバター(みたいな料理)は、審査員の奥様方から「トリュフなんか使われても家にねーよ」と酷評されてしまうのだ。

 

 

「最高級の料理を作るためには最高級の食材を」がモットーの尾花に対し、「ここは日本。高級食材はもはや敬遠されてると考えた方が良い、時代は変わっているんだ」と現役時代は大きくリードを取っていた相沢から、逆に諭されること。しかしこの一件が、プライドの高い尾花の価値観を大きく変える転機となる。

 

 

キムタクっぽくないドラマを作ろうとしていた昨今に対し、『グランメゾン東京』は王道ど真ん中のキムタクドラマを貫こうとしている。しかしその中で、新たな「木村拓哉」像を打ち出そうとしていることも確かだ。再起を図る尾花夏樹の姿に、今の木村拓哉を勝手に重ねてしまうのは私だけではないと思う。まだ折り返しの第5話だが、私の中では早くも「令和のキムタク代表作」になる予感がしている。大人も子供も、おねーさんも、キムタク好きにも、キムタクアレルギーにも見てほしい。そしてやっぱり今作でも思ってしまうんだ、「グランメゾン東京」がこの町のどこかにあればいいのにって。

 

 

tver.jp

 

明日まで無料配信の第5話、ラストが激アツなのでとりあえず見てください。