日テレのシナリオコンテストで、応募総数1040編の中から満場一致で大賞を受賞した『217円の絵』(作:神谷克麻)が、ドラマ化されたので見てみた。
高校生の春文は、アルバイト先のコンビニにたまたまお客さんでやってきた元プロ野球選手から、ノートにサインをしてもらう。その光景を眺めていた屁理屈な同僚のおじさんにいきなり変な質問をされる。
「定価200円の数学のノートが、2000円以上になる方法知ってる?」
その答えは「春文くんがホームラン500本打てばいいんだよ」というものだった。つまり、持っている人の価値が上がれば、自動的にそのモノの価値も上がるのだと彼は言う。
世代の違う二人が、世の中のさまざまなモノの価値や、そもそも私たちが当たり前に従う価値観そのものを見つめ直す『217円の絵』。23分で見れるので、ぜひこの文章を読む前に見てほしい。家庭環境が複雑で、将来を夢見ることができない高校生・春文を齋藤純。アルバイトで生計を立てながら、しがない絵描きをしている44歳のおじさん・御所を風間俊介が演じていて、どちらもわかる〜〜〜的な配役で、特に御所は風間くん以外いないかも……と思った(風間俊介の代替いない問題がここでも勃発)。
実は春文も絵を描くことが好きで、ある日路面で絵を描いていた御所を見かけたところから、二人は交流するようになる。脚本ではそこに至るまでに、カードの5ポイントを執拗にせがむ客や、一発逆転を夢見て働かずに馬券を買う春文の母を通して、あらゆる角度からモノの価値を考えているのだが、わりとカットされているシーンが多かった。「イーロン・マスクから1万円もらうのと、年金暮らしのおばあちゃんが生活切り詰めて必死に抽出した1万円もらうのとどっちが嬉しい?」から「ゆたぼんから恵んでもらう1万1円、どっちが嬉しいですか?」のくだりとか、ゆたぼんを子ども系Youtuber に濁して、なんとか入れてほしかったなとも思う。
御所のとある絵に惹かれた春文は、それを買い取ろうとする。手持ちの金を必死にかき集める最中、御所は一万円だった絵がオークションに出されて6600万円の値がついた話をし始める。それは、絵を描いた作者がゴッホだったとのちに判明したから。作者の価値で絵の価値が決まるならば、自分が描いたこの絵は0円でもらってくれていいと彼は言う。
満場一致で受賞した理由がよくわかるすごくおもしろい脚本で、映画タッチな画の作り方もとても洗練されていて、社会的な評価を受けていない御所の絵を春文だけは評価しているところも特に良かったんだけど……!
結末を“エモ”に昇華させていた点がどうしても気になってしまった。ラストのインパクトが強すぎて、そこに向かうだけの物語に見えたのである。なんでそう見えたんだろう……と今日一日考えていて、なんとなく答えがわかった。きっと私は「絵の価値は作者の価値で決まる」とあんな結末を選んだ御所に対して、NOを突きつけてほしかったんだ。これからの時代を担う春文に「そんなことはない」と言ってほしかった。たしかに今の時代はそうかもしれないけど、本来の芸術の価値は「作品そのものにある」と言ってほしかったんだと思う。
……てことを考えながら、実際の脚本を読んでみると、まさにそれを示唆する……というか、くそったれな世の中にちゃんとNOを突きつける春文のシーンがあった。なぜカット……!??この結末からどんなメッセージを受け取るかは視聴者に委ねますぜ……的なラストが、ある意味とても映画的な作品だと思ったんだけど、元の脚本にはちゃんと書いてたっていう。もちろん作り手が協議に協議を重ねた上で、カットした結果なんだけども、あのシーンが抜けたラストはふわっと感じたな。でも、すごくおもしろい脚本だった。神谷克麻さんはこれからどんどん活躍しそうだ。
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