いきなりですが、私は結婚願望はあるけど、子どもを望んでいない人間である。子どもは好きな方だし、子どもに好かれやすい方だとも思う。だけど、昔から自分が母になる想像がつかず、私はずっとやりたいことをやって生きていくんだろうなと思っていた。そしてその気持ちは30代になってからより強くなった。他にも子どもを望まない理由はあるけど、ひとまず割愛。
そんな私は一人っ子で、昔から「親が死んでしまうと一生ひとりぼっちだ!」という想いが強かった。だから結婚したい。そう話すと「子どもが欲しくないならパートナーシップとかでもいいんじゃない?」と既婚の友達に言われたことがあった。結婚はいろいろ煩わしいこともあるんだよ、と。日本には、結婚したいパートナーがいても婚姻制度を使えない人たちもいる。パートナーシップを結んで仲良くやっている人たちもいる。そのなかで私がひどいと声を荒げるのは烏滸がましいかもしれないけど、子どもを産まないなら婚姻制度を使わなくてもいいんじゃない?と言われるのは(そこまで言ってないけどね)なかなか横暴に感じた。心無い政治家とかは私のような人間を「生産性がない」というのだろうか。
という前置きから、2025年の新春に放送されたスペシャルドラマ『スロウトレイン』について語りたい。あの野木さんがホームドラマをやるという第一報が流れた時から、すごく楽しみにしていた作品だ。
松たか子と多部未華子と松坂桃李の3姉弟は、幼い頃に両親と祖母を交通事故で亡くしている。名字は「渋谷」だけど鎌倉に住んでおり、はこねえ(松たか子)はフリーの編集者、うーちゃん(松坂桃李)は江ノ電の保線員、みゃーこ(多部未華子)はカフェで働いていたのだが、法事の帰り道に突然「韓国に行く!」と言い出した。そのみゃーこの一言をきっかけに、いままで一緒だった三姉弟にいよいよ人生の分岐点が訪れる、というストーリーだ。ここからネタバレ全開で書くので、まだ見ていない人は読まないでください。
すごく楽しみにしていた作品だったが、期待値が高かったこともあり、最初はあまりピンとこなかった。主人公が松たか子だからというのも大いにあるが、こまごまとした会話の応酬がどうしても『大豆田』と重なった。松たか子&池谷のぶえのいわゆる中年女性のパートはめちゃくちゃ良かった。だけど、松たか子に気がありそうに見えた拗らせ作家の星野源が、実は弟である松坂桃李の恋人だということが発覚して、それはさすがに狙いすぎじゃないかと若干引いた。良識あるファンが「妄想も程々に」と諭すツイートを見かけたけども、あれはどうぞ消費してくださいと言わんばかりの組み合わせで、作り手の意図とキャスティングが合ってないんじゃないかと思った。日韓カップルの描写はものすごくリアリティーがあったが、そもそもなんで日韓カップルを出そうと思ったのだろう。多様性の象徴かなぐらいに思っていた。
こんな感じで私はあまり要領を得てなかったのだけど、中盤に登場した婚活中の宇野祥平がはこねえに対して「あなた孤独じゃないんですよ。だから簡単に言えるんです、一人でも生きていけるって」といきなり30代独身一人っ子の気持ちを代弁してくれたもんだから、そこから思わず前のめりになった。「なんで一人がいいの?」と「なんで結婚したいの?」も同じ苦痛があると思う。はこ姉のような人のドラマはあるけれど、「結婚願望があるのに『一人でもいいじゃん』と言われる人」の例はあまり見ないから嬉しかった。松たか子が元恋人の井浦新と別れた理由もおもしろかった。『海に眠るダイヤモンド』につづき、野木さんが“欲望のない若者”を描いていたことも興味深い。松たか子を通して、いたるところに野木さんのマッチョさが垣間見えていたのも面白かった。
そして私は、松たか子が亡き母に対して「私は子どもを残しません」と言い切ったラストシーンで、この作品のことを初めて理解できた気がした。これはいわゆる“生産性のない人”たちのホームドラマではないか。そういう心無いまなざしで見られたことのある人たちの物語なのではないだろうか、と。
もちろんこの三姉弟の未来がどうなるかはわからない。だけど、物語中で汲み取れる情報としては、うーちゃんは同性のパートナーと暮らすようになり、はこ姉は子どもを望まない人生を楽しく生きる。みゃーこは子どもを産む可能性はあるけれど、子育てをするとしても韓国だろう。平たく言えば、日本の出生率には貢献しない人だ。
そんな家族のカタチもある、と野木亜紀子は描く。父・母・子がちゃんと揃っていなくても、日本人と韓国人のカップルでも、同性同士の組み合わせでも。そして子どもを産まない決断をした女性の存在を認めてくれる。『スロウトレイン』はまさしくそんな作品だと思った。
三姉弟は異国の海岸で「家族ってなんなんだろうね」と語り合う。でもどんな言葉よりも、一見ばらばらそうに見える彼らが“家族”としてお正月の食卓を囲うラストシーンに励まされた。家族揃ってこのドラマを見ている人、「結婚はまだ?」と聞かれてゲンナリしている人、ひとりでこのドラマを見ている人……たくさんの人がテレビを見て、家族とはなにかを考える、考えさせられるお正月だからこそより一層、このドラマの意味を感じたのだ。
#スロウトレイン 先日の恋バナキャスで「子どもがいらなければ結婚しなくても良くない?ていわれるんですけど…」的な話をしたんですが、今作は新年から「家族」という概念のスクラップアンドビルドをしているように感じた。うーちゃんは同性のパートナーと、みゃーこは韓国人の彼と韓国で暮らして
— 明日菜子 (@asunako_9) 2025年1月3日
(将来的には子どもがいるかもしれないが生活の場所は韓国だろう)極めつけには葉子の「私は子どもを作りません」という一言。日本で子孫を残さない、次世代にバトンを渡さないみたいな彼らの生き方を描く。それでもラストは私たちと同じようにお正月の食卓を囲んでいて、そこがすごく新鮮だった
— 明日菜子 (@asunako_9) 2025年1月3日