あすなこ白書

日本のドラマっておもしろい!

『日曜の夜ぐらいは…』のみねくんは、バカリズムにはなれない

 

「要するにみねくんは、女好きとかそういうんじゃなく、女性が好きで、女性を守りたくて、恋愛とかそういうんじゃなく、女性と一緒にいたい、女性が傷つくのが嫌で嫌でたまらなくて、出来れば女の人になりたい、男が嫌い」

このセリフを聞いたとき、『日曜の夜ぐらいは…』に対して、積み重なっていた「ううううんん??」が確信へと変わった。「ううううんんんん」になった。正直にいうと、2.3話くらいにみねくん自身が似たようなことを言ってたとき、むむむ?となったのだが、セリフがあやふやなので、わぶちゃんのを引用。ふわっとモヤモヤしているくらいなのだが、こんなこと感じてたんだなぁとドラマ完走後に振り返るため、ここに残しておく。

 

 

本題に入る前にあらすじを。ファミレスでアルバイトをする主人公のサチ(清野菜名)は、車椅子の母と二人暮らし。高校を中退してから28才になるまで、様々なことを諦め、母を支えるためだけに一生懸命働いてきた。ある日、エレキコミックがパーソナリティーを務めるラジオ番組のヘビーリスナーである母が、オフ会旅行に応募。代理で参加したサチは、そこでちくわぶ工場で働くおばあちゃん子の若葉(生見愛瑠)と元ヤンのタクシー運転手・翔子(岸井ゆきの)と出会う。年齢も職業も立場も違う、あえて共通点をあげるならば、それぞれ別の生き辛さを抱えながらも必死に世の中をサバイブする3人の友情物語である。

運命の出会いを果たした3人の、平凡だけど、特別な日常を描くんだろうなぁと勝手に想像していたのだが、旅先で購入した宝くじがまさかの当選。当選金3000万を山分けした3人は「オフ会で偶然に知り合っためちゃくちゃ気の合う友達」を超えた“運命共同体”となる。

脚本は『ちゅらさん』『泣くなはらちゃん』『最後から二番目の恋』、最近は『姉ちゃんの恋人』やセミの山田涼介が人間と恋する『セミオトコ』、なぜかミッドサマーを彷彿させた『にじいろカルテ』などの岡田惠和。脚本家に詳しくなくとも作品名を見たら、どんな雰囲気なのか分かる人もいるでしょう。新ドラマ枠のトップバッターを託すにふさわしい超ベテランである。しかし個人的なことを書くと、最近の岡田脚本はnot for me の連続。心が常に澱んでる私は、岡田脚本の優しすぎる世界観に居心地の悪さを感じていた。

ただ、岡田脚本の人物造詣はすごい。大ベテランに向かってなんつうことを…と思うかもしれないが、それでも言いたい。めちゃくちゃきめ細やかなのだ。岡田さんの感性はいつの時代も研ぎ澄まされているし、岡田さんしか描けないだろうシーンもたくさんある。

『日曜の夜ぐらいは…』で言うと、第一話でサチと母親が喧嘩をするシーンがあるんですけど。煮詰まったサチは「行きますか」と、母親を深夜のセブンイレブンに連れ出す。そこで一番好きなアイスではなく、“一番高いアイス”を買って、「大丈夫だよね、私たち?」「そうだね、大丈夫」と言いながら、寒空の下でアイスを食べるシーン。

……このシーンすごくないですか、すごくなかったですか?!!コンビニの一番高いアイスが、仲直りの道具や辛い日のご褒美とかではなく、決して裕福な暮らしではないサチと母が“自分たちの尊厳を確かめるもの”として作用していたの、めちゃくちゃすごくないですか……?でもきっと、生活に困っていない人から見ると、ハーゲンダッツやセブンのプレミアムアイスは“自分へのご褒美”に過ぎない。けれどサチたちにとっては、もっともっと深いもので。しかもそれを「大丈夫だよね、私たち?」「そうだね、大丈夫」という短い掛け合いだけで表していたことが、すごいを超えて、美しさを感じた。(それなのになぜみねくんパートは説明過多なんだ)……とはいえ、最近の岡田脚本に私が合っていないのは事実なので、そういう前提で読んでほしい。

『日曜の夜ぐらいは…』を見てて、どうしても頭によぎってしまうのが、同じく女の友情を描いた『ブラッシュアップライフ』。30半ばで亡くなったあーちんが来世も人間に生まれ変わるために、何度も人生をやり直す。あーちんの人生は基本的に地元で展開されており、どの人生でも同じ女友達となんらかの形で交わるようになっていた。彼女たちの関係を保証してくれる制度は、世の中には存在しない。けれはど、幕を下ろすその日まで、大好きな友達と他愛のないお喋りをしながら人生を満喫したあーちんが眩しかったし、変わらない彼女たちの姿にはとても勇気づけられた。

私は内容以外のところで作品をジャッジをしたくないのだが、『日曜の夜ぐらいは…』に、最初のうううん?を抱いたのは、「恋愛なんか奇跡じゃない。友情こそが奇跡だ」というキャッチコピーだった。

シスターフッドと呼ばれる“女たちの連帯”をテーマにした作品が、日本でもようやく芽吹いてきた昨今、トレンドを捉えたコピーのようにも見える。見える……けど、わざわざ恋愛をサゲて、友情アゲしなくても良くない?もちろん、恋愛ばかりを描く作品に辟易する人もいるだろうし、自分とは関係ない物語だとシャットダウンしてきた人もいるかもしれない。そして恋愛を描かない物語に救われてきた人もいるだろう。だけど、わざわざもう片方を下げなくても良くないか。

最初から最後まで女たちの他愛もないおしゃべりを中心に回っていた『ブラッシュアップライフ』は、多くの人の心に刺さった。たしかに恋愛だけに軸を置かない物語は、すごくイマドキだ。だからこそ刺さった。だけど『ブラッシュアップライフ』のすごいところは、ただ女同士の友情物語を描いたからではなく、余計なことを言わずスマートに、女同士の友情物語をやってのけたことだと思うのだ。

でも、キャッチコピーはライターが書いたのだろうから、本編には大して関係ない。大して関係ないよと示してくれと『日曜の夜ぐらいは…』に願いつづけてきた。しかし、いざ本編が始まってみると、別の問題が気になる。サチ・わぶちゃん・翔子が、世間が思っているのでだろう「女ってこうだよね」をそのまま具現化した"厄介そうな女3人グループ"になってしまってキツかった。再会するたびにキャ〜!!とハグをしたり、お喋りに夢中になって人の話を聞いてなかったり、うちらサイキョーだよねと思ってそうなところがなんとも言えない。お高めなパンケーキを食べてキャッキャしてたら他所のテーブルの女に白い目で見られてたり、職場のおばちゃんが若葉のことを毛嫌いしていたりと、無意識に「女の敵は女」を書いちゃってる点もなんだかな~。しかもこの脚本を書いているのが男性だから、いまどきこんな表現をしたくはないのだけれども、男性には分かんないですよね……という気持ちになってしまっていた。

さて、そんな物語から生まれた“みねくん”である。女好きとかそういうんじゃなく、女性が好きで、女性を守りたくて、恋愛とかそういうんじゃなく、女性と一緒にいたい、女性が傷つくのが嫌で嫌でたまらなくて、出来れば女の人になりたい、男が嫌いな“みねくん”。

そもそも岡山天音演じる“みねくん”は、ラジオ番組の古参リスナーで、オフ会旅行のスタッフも任されて、実質的にサチたちを引き合わせた張本人。普段は営業の仕事をしていて、3人とは恋愛ではなく、友情関係を結ぶみねくん。先週の放送では、3千万を管理する経理係に任命されていた。

そんなみねくんのことを、あれだけセリフで事細かく説明しているのは、「出来れば女の人になりたい」と言う彼のことを、ホモソーシャルから抜け出したい人だと伝えたかったからだと思う。セクシュアリティの問題ではなく、男社会から解放されたい人。カラオケで中島みゆきを歌っても白い目で見られず、同僚たちに「ガッツだぜ」を強制されない、そんな世界に行きたいのだろう。

「女の人になりたい」男性といえば、『ブラッシュアップライフ』を書いたバカリズム先生である。バカリズム先生がOLになりすまして書いた作品が『架空OL日記』であり、その集大成が『ブラッシュアップライフ』だ。彼が描いた女たちの物語を見るたびに、ガチガチのホモソーシャルなお笑い界で生きてきたバカリズム先生は、なんら他愛もない女たちのお喋りに、憧れているんじゃないかと思う。年齢も職業も社会もなんら関係なしに連帯できる女たちの姿に。つまり、みねくんは第二のバカリズムともいえるんじゃないだろうか。

けれど、みねくんはバカリズムにはなれない。なぜかというと、(こんなこと言うのは申し訳ないが)バカリズム先生は「女好きとかそういうんじゃなく、女性が好きで、出来れば女の人になりたいのかもしれないが、女性を守りたいとか救いたいとか、そういうことは思っていなさそうだから」である。

でも、私はそんな距離感で描かれた『架空OL日記』と『ブラッシュアップライフ』が好きだ。守りたいとか、救いたいとか、思ってくれなくても好きなのだ。

まあ勝手に『ブラッシュアップライフ』を重ねているのは私なんだけど、ステレオタイプな女性観のもとに成り立っている物語に現れた“女に理解のある彼くん”ことみねくんに対して、どうしても訝しげな目で見てしまうのである。そもそもみねくんの「女になりたい」って、「男社会より女のほうが生きやすい」みたいな前提のもとに成り立っていたりしないか。女になりたくてもいいが、男は嫌いだと言わなくてもいいじゃないか。現にみねくんが好きなエレキコミックは男性じゃないのか…などなど。ここでもまた「わざわざそんなことを言う必要はあるのか?」と意地悪なことを思ってしまうのである。

ごめんよ、みねくん。でも岡山天音は最高だし、みねくんの生きづらさも解消されてほしいと思ってはいる。願わくば3人と「ウチら最強〜!!」と固まるのではなく、同じく男性らしさに対して生きづらさを抱えているだろうカフェプロデューサーの賢太くんと、ゆるやかな連帯を見せてくれ〜い!!