あすなこ白書

日本のドラマっておもしろい!

仁村紗和がほぼ毎週泣いてるドラマ『あなたのブツが、ここに』

コロナという疫病が発生して、もうすぐ2年半くらいになるだろうか。あの頃、私はいまの会社に入社したばっかりだった。最初の方は毎日部署の人と顔を合わせていたが、日に日に出社する人の数が減っていった。仕事終わりに友達と約束をしていたら、晩ご飯を食べるお店が見つからなくて、普段ならば全く立ち寄らないような居酒屋へ入った。リモート飲みという目新しい文化が盛んだった。合コンだかマッチングアプリだかで会った興味のない男性から誘いがくれば、NOの代わりに「コロナが終わったら会いましょう」という新時代の断り文句を突きつけたりもした。

いまとなっては懐かしさを覚える緊急事態宣言後、未知の疫病で揺さぶられていた2020年からスタートしたドラマ『あなたのブツが、ここに』がいよいよ終盤を迎える。主人公・亜子(仁村紗和)は、小学生の娘を抱えたバツイチのシングルマザー。最初は昼の仕事よりも割の高い十三のキャバ一本で働いていたものの、緊急事態宣言によって夜の店は窮地に陥る。そもそも若さとテクニックを要する夜の世界で、28才の亜子はお世辞にも人気とはいえないキャバ嬢だった。貯金は減っていくばかりだったところ、給付金詐欺(by夜の客)に合ってしまい一文無しになった亜子は、疎遠だった母を頼って尼崎へ。踏んだり蹴ったりの状態で悔し涙を流す亜子のシーンから、この物語は始まるのだ。

あなたのブツが、ここに - NHK

尼崎へ戻った亜子はお茶っぴき状態のキャバをつづけつつも、夜のお客のツテで宅配ドライバーの仕事に就く。でもSTAYHOME渦の宅配ドライバー業は、思っていた以上に過酷だった。ただでさえ忙しい運送業が余計に忙しくなった時期、それに加え、慣れない仕事で怒鳴られつづけていた亜子。

しかし、怒鳴っていた先輩も、一緒に働いていた売れっ子キャバ嬢も、時短営業にもめげずに小さなお好み焼き屋を営んでる母親も、慣れない地へ転校した娘も、それぞれ"覚悟"を決めていたことを知った彼女は、夜職への未練を断ち、宅配ドライバーの仕事へと転職する。中高とソフトボールをやっていて「心が折れたら負けてしまう」と唱えつづけていた亜子が、毎週泣いてるシーンがとにかく印象的なドラマだ。

 

『あなブツ』を見ていると、コロナという病が世間を賑わせたあの頃を思い出す。幸運なことに、私の生活は大きく変わらなかったものの、コロナ禍に転校した娘・咲妃と同級生の「なぁ、咲妃ちゃんってどんな顔してんの?」「私、咲妃ちゃんがどんな顔してるかわからへんねんもん」というやりとりや、母・美里が「いったん休んだらな、もう立ち上がられへん気がするんよ」を聞いては、胸がきゅっとなった。亜子の上司である武田の「何がエッセンシャルワーカーや。雑に扱いやがって」の主張にもしかと頷ける。

私は結婚もしてないし、関西にも住んでいないし、宅配ドライバーでもないけれど、泣きじゃくる亜子の涙を“知っている”。「コロナいつ終るんやろうな」という亜子たちがぼやっと抱いている不安も”知っている“、"わかる"。きっと『あなブツ』登場する人たちが経験している痛みと同じものを、大なり小なり、私たちも経験しているのだ。

 

コロナという疫病が発生して、今年の冬で3年になる。帰省期間にコロナが発症し、親に感染させて、どうしようどうしようと思いながら過ごした一カ月もあった。好きな人に「コロナが終わったらね」と言われ、これはもう一生会えないんじゃないかと落ち込んだこともあった。この先の人生どうなるんだろうと、どうしようもない孤独に駆られる日もあった。だけど、みんな「コロナだから仕方ないね」を口にそれぞれが強くなっていた。

でもその一方で、あの時の私たちはたしかにそれぞれ傷ついていたのだとも思う。コロナで得たものよりも失ったものの方が遥かに多い。『あなたのブツは、ここに』はあの時の私たちに「辛かったよね」といってくれる寄り添ってくれる、唯一無二のドラマだった。

 

↑9月末で終わっちゃう『あなブツ』ですが、期間限定はNHKプラスでの配信が決まりました!このブログで興味を持ってもらえた方はぜひ!