あすなこ白書

日本のドラマっておもしろい!

『3年A組』を見た私が、なんかモヤモヤした理由(ネタバレ)

結論から言おう。私にこの作品は合わなかった。そもそも“学生”の称号を随分前に失ったアラサーの私が、若年層向けの今作を「合わなかった」と言うこと自体、お門違いな話かもしれない。しかしなぜ合わなかったのか、その理由を自分で把握しておきたいと思った。

 

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あらすじをサクッと話す。卒業式を10日後に控える魁皇高校で、事件は起こった。「今から皆さんは人質です」美術教師・柊一颯は、自分が受け持つ3年A組の生徒を人質に教室へと立てこもる。柊の目的は一つ、「半年前に亡くなった3年A組の生徒・景山澪奈が自殺した真相を明かすこと」だ。水泳部所属の澪奈はオリンピックの代表候補にも選ばばれた有名選手で、魁皇高校のスターだった。しかしネットに上がったドーピング疑惑の動画(実際はフェイク動画)を機に、多くの誹謗中傷を受けるようになった澪奈は自らの命を絶ってしまう。

「景山澪奈はなぜ死を選んだのか」3年A組の生徒や魁皇高校の教師、警察、そしてSNSを通じて日本中の人々へ問いかけるのだ。


サイコパスな教師VS生徒」は決して珍しい構図ではないが、お茶の間の視聴欲を掻き立ててはいた。日曜の遅めの時間帯ながら視聴率は好調で、各メディアは「テレビ離れした若者が夢中になる作品!」など概ね絶賛した内容の記事を書いた。しかし、私自身は日テレがよく口にしていた「ゾクゾク」とは違った意味での「ゾクゾク」を感じながら、この作品を終始見ていたのである。

 

 
全10話の今作は、1~5話を「第一部」、6~8話を「第二部」、9~10話を「最終章」と銘打った。作品の時間軸は基本1話=1日で、1話ごとに柊一颯が課題(質問)を出す。生徒たちは澪奈の死について改めて考え、一つの答えを導き出すのだが、大体その答えは(柊の中で)間違っていて高確率で柊に説教をされる。「俺が出す質問に答えられなければ、お前らを殺す…(ニヤリ)」的な台詞はサイコパス教師の口癖のようなもので、御多分に漏れず柊も宣言し、第1話で早くも一人の男子生徒が犠牲になった。

と思ったのも束の間、その男子生徒は生きていた。ナイフでグサッと刺されたかと思いきや、普通に生きていのだ。クラスメイトと再会を果たした彼は「先生に協力してほしい」と訴えかける。柊は私利私欲の為ではなく、誰よりも生徒のことを思って今回の凄惨な事件を起こしたのだと……。柊に対する目が変わり始めた生徒たちとは裏腹に、「サイコパスだと思っていた教師が実は良い人」という設定は私の熱を急速に冷ましていった。しかも柊は余命幾許の末期癌らしい。柊はサイコパス教師ではなく、自分の残り少ない命を懸けて愛する生徒たちに魂の授業を行うイケメン教師だったというわけだ。め、めちゃくちゃ良い人じゃん……。

 

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3年A組-今から皆さんは、人質です- - Wikipedia

 

柊が“良い人”かはさておき、魂の授業は毎回白熱した(柊は毎回「“俺”の授業を始める、礼」で無理難題な授業を始めるのだが、個人的にはこの号令もスーパーウルトラドチャクソに寒かった)。柊演じる菅田将暉はスタイリッシュだが、授業内容自体はとことんベーシックだ。熱弁する柊の姿を見て、ふと武田鉄矢が頭を過る。柊一颯は平成最後の金八先生、いや菅田将暉依代を借りた武田鉄矢なのでは?

柊の教えについては、図の右側を見てほしい(どこぞの誰かが編集したものだが、まとめ方が素晴らしい)内容の問題か、それとも大人になったからか。学生時代、金八先生の言葉に多少なりとも感銘を受けた私が柊一颯の言葉に心を動かされることはなかった。

 

「合わない理由を把握したい」と言いつつも、私の中で答えは既に出ている。全体に漂う茶番臭、シリアスな雰囲気をぶち壊すような蛇足な演出。生徒が事件に巻き込まれているにも関わらず、呑気に愚痴をこぼす教師のシーンは吐き気がした。「教師VS生徒」の構図は早々に崩れたが、必要以上に生徒たちを脅かし続けた柊のやり方も理解できない。必要性を感じない特撮の流れも、脚本家のエゴとしか思えなかった。

 

 

しかし、一番の理由はこれな気がする。

「フェイク動画を撮影したのは誰か?」「フェイク動画を拡散したのは誰か?」「フェイク動画の作成依頼をしたのは誰か?」柊からの質問が事細かすぎて「あれ、結局なにが一番悪かったんだ?」と我々の頭もいよいよ混乱してきた最終回。「景山澪奈を殺したのはSNS」それが柊一颯が出した答えだった。自覚のない悪意はナイフとなり、誰かを傷つける。言葉一つで人を救うことも殺すことも出来る、と。3Aは、昨今蔓延る間違ったSNSの使い方に警鐘を鳴らしたかったのだ。

 

わかる、わかるよ……!柊一颯の言葉はド正論中のド正論だ。『3年B組金八先生~2019~』があるならば武田鉄矢も同じことを言うはずだし、私が小山内美恵子で脚本を書いたならば似たようなオチをつけるだろう。

でも私は何となく、何となくだけど。3Aと“たびたび問題になっているSNSでの動画”に似たような空気を感じた。今作が誰かを傷つける内容を放送しているわけではないし、視聴者を煽ることは決して悪いことではない。結果的に高視聴率をマークしているし、多くの視聴者を引き付けることによって届けたい層に届いているのだから、ドラマとしては成功だ。再三言うが悪いことではない。悪いことではないが、モヤっとしてしまった。「Let's think」と促す柊に対し「お前もな」と思ったように、作品が伝えたいメッセージと作品そのものが見合っていないように感じたのだ。

 

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しかし3Aが残した功績は多い。これはご機嫌取りではなく紛れも無い事実だからこそ、「お主やりおるな……グヌヌ」な気持ちで書いている。

最終回で記録した15.4%の視聴率は近年中々取れる数字ではないし、しかもこれが日曜の22時30分という遅めの枠なのだからマジ快挙。近年絶滅危惧種となった学園ドラマに挑んでくれたこともドラマオタクとしては大変有難いし、全くテレビを見ていない若年層を3Aがテレビの世界へ引き連れてきてくれたのならばマジ感謝だ。

 

もし3Aを機に「ドラマって面白いじゃん」と思ったヤングがいるならば、是非今後もドラマを見てほしい。『3年A組』より面白いドラマは山ほどある。人の好みは人それぞれだが、それでも自信を持って言おう。『3年A組』よりつまらないドラマは山ほどあるし、『3年A組』より面白いドラマも山ほどあるのだ。

 

 

何よりも、このブログを読んでくれた貴方にマジ感謝。